スウェーデン王立科学アカデミーは10月7日、2026年のノーベル化学賞を東京理科大学名誉教授の硤合憲三(そあい・けんそう)氏と、フランスのアンリ・カガン氏に授与すると発表した。受賞理由は、不斉有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見。分子の『左右』の違いが、どのように生まれ、増幅されるかに迫った研究が評価された。
『不斉自己触媒反応』という言葉だけでは内容をつかみにくい。今回の成果を理解する鍵は、鏡に映した関係の分子があることと、反応で生まれた物質が、その後の反応を進める役割も担うことだ。発表された結果と研究の背景を、公式資料に沿って整理する。
受賞者は2人、賞金は均等に分配
ノーベル賞公式発表は、カガン氏の所属を旧パリ南大学、硤合氏の所属を東京理科大学と記載している。賞金は総額1200万スウェーデンクローナで、2人に均等に分配される。日本物理学会も同日、両氏の受賞決定と同じ受賞理由を案内した。
公式略歴によると、硤合氏は1950年に広島で生まれ、1979年に東京大学で博士号を取得した。東京理科大学の研究室ページでは、2025年の日本学士院賞、2026年2月の有機合成化学特別賞の受賞も確認できる。今回の受賞は、以前から継続してきた不斉の起源に関する研究の延長にある。
鏡像分子とホモキラリティーとは
右手と左手は鏡に映したような関係にあるが、向きを変えてもぴったり重ならない。同様の関係を持つ分子を鏡像異性体と呼ぶ。東京理科大学の研究紹介は、生体にあるL-アミノ酸のように、一方の鏡像異性体から成り立つものが多いことを説明している。
このように分子の向きが一方にそろう性質が、ホモキラリティーだ。左右の形を作れる反応で、どのように一方への偏りが生まれるのか。その化学的な過程が、長く研究の対象になってきた。ノーベル賞公式は今回、こうした非対称性の成立を説明する発見に光を当てている。
鏡像分子は、生体との相互作用でも同じ働きをするとは限らない。このため目的の形を選んで作る技術は、医薬品を製造する反応の設計にも関係する。受賞は分子の合成方法と生命の化学的な特徴の両方に関わる成果を評価したものだ。
不斉自己触媒反応は、偏りを自ら増幅する反応
硤合氏らが見いだした不斉自己触媒反応は、反応で生成する物質が触媒としても働き、分子の左右の偏りを高めていく反応だ。東京理科大学は2011年の日本化学会賞の紹介で、これを『そ合反応』として説明し、不斉の起源とホモキラリティーに至る過程の研究に用いたことを記している。
同大学の資料では、水晶などのキラルな無機結晶、キラルな結晶を作る有機化合物、円偏光を不斉の起源に用いた研究も紹介されている。注目点は一方の形を取り出すことだけではなく、偏りが生まれるきっかけと、それが反応によって大きくなる過程を調べられることにある。
米国化学会(ACS)も受賞に際し、カガン氏は一方の分子の形を高い選択性で作る原理を築き、硤合氏は分子が自らの向きの偏りを増幅する現象を明らかにしたと説明した。2人の業績は、それぞれ異なる段階から分子の向きの制御につながっている。
3つの年で整理する、2人の研究の進展
ノーベル賞公式の説明を時系列に並べると、今回評価された研究の流れが見えてくる。
- 1986年:カガン氏が反応を制御する新しい方法を発見。一方の鏡像分子の比率を、従来考えられていたより高められることを示した。
- 1995年:硤合氏が、ホモキラリティーに至る可能性を持つ化学反応を設計した重要な論文を発表した。
- 2003年:硤合氏が、可能な2つの鏡像のうち一方だけを形成する反応を発表した。
この並びから、受賞対象が一度の実験だけではなく、反応の選択性の発見から自己触媒による増幅へと進んだ研究であることが分かる。生命の分子に見られる偏りを、化学反応の仕組みとして調べるための道筋が示された。
公式の発表動画と研究資料で確認できる
ノーベル賞公式は、受賞発表の動画に加え、一般向けの解説と専門的な背景資料を案内している。まずは公式発表で2人の役割と研究の時系列を確認し、硤合氏の研究を詳しく知りたい場合は、東京理科大学の研究紹介と併せて読むと用語の関係を追いやすい。
研究の意義は目的の鏡像分子を作る反応の設計と、ホモキラリティーが生まれる過程への理解にある。個別の薬の効果や、新しい治療の実用化時期を示す発表とは区別して受け止めたい。
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参照した情報源
- Press release: Nobel Prize in Chemistry 2026 (NobelPrize.org / 2026-10-07)
- Nobelpriset i kemi 2026 (スウェーデン王立科学アカデミー / 2026-10-07)
- ACS president comments on award of 2026 Nobel Prize in Chemistry (米国化学会(Newswise掲載) / 2026-10-07)
- 硤合憲三教授が第63回日本化学会賞を受賞 (東京理科大学 / 2011年の受賞紹介)
- 硤合研究室・受賞歴 (東京理科大学硤合研究室 / 2026-10-07確認)
- 2026年ノーベル化学賞の受賞決定について (日本物理学会 / 2026-10-07)
記事内の情報は2026年10月7日21時05分時点のものです。

